スプラング
~時空を超えて紡がれる古代テキスタイルの物語~

筆者 相原千恵子プロフィール:
テキスタイル作家、スプラング及び古代技法の研究家
主に南米アンデス地域への調査旅行、個展、ワークショップを続けている。

第3話 アンデスの組み技法いろいろ

写真1 ペルー、海岸地域出土の組みひも 個人蔵
写真2 投石具オンダ(honda) 2種 現代

  

組技法とは?:

 たとえば女性の髪型の三つ編みのように、組みは最低3本の糸から可能です。織り技法はタテ糸とヨコ糸をほぼ直角に交差させて布を作るのに対して、組み技法は多数の糸をそれぞれに斜めに互いに交差させたり捩り合わせて作ります。組む方法は上から下方向へ、下から上へ、またはループ状の糸端を指先に掛けて行うなど、さまざまな方法が世界には遺されています。「組み」もルーピングと同じく、「織り」の発生以前からある原始的な手法です。

日本の組み:

 日本では伝統的に組みひもが日常のいろいろな場面に使われており、私たちには馴染み深い技法と言えるでしょう。古くは大陸から伝来した組みひもが正倉院の御物の中にもあり、戦国時代には武将たちの鎧を形造るひもとして大量に作られ、現代でも帯〆や羽織のひもなどに使われています。素材は美しく染められた絹糸で、さまざまな文様のひもが組み台と呼ぶ道具を使って作られます。絹の特性としては滑りが良く伸縮性には乏しいので、しっかりと組み締めて良質な組みひもを作るためには鉛のおもりや組み台の道具が必要でした。また近年はグラスファイバー製の丈夫なロープなどが機械生産され、建設業やアウトドアに多用されています。

アンデスの組み:

 アンデスでは組みひもは手指だけを使って作られます。素材のアルパカは絹と違って適度に伸縮性があるので、左手を拳のようにして台代わりに使い、両手の指で糸を捌きながら組むことができます。アンデスでは昔から部族間の戦いには投石具(写真2と3)を武器として用い、それが組む技術で作られたことから伝統的に作り手は男性でした。

写真3 ペルー、ナスカ文化期の投石具 B.C.200~
写真4 ペルーの民芸市で。1988 農閑期に投石ひもを作る男性

アンデスの組みいろいろ:

 投石具に使われる丸ひもや四角い形のひもの他にも、幅広の帯(写真1)や織り布の耳を始末しながら補強とデコレーションを兼ねた方法など、さまざまな手法がアンデスでは考案されました。他の地域には類例のない組みと織りを巧みに組み合わせた手法も見られます。もともと日常的に動物の毛や綿の実の繊維を紡いで糸にした彼らにとって、長い組みひもであっても途中で糸を作り足せば難なくできることでした。既製の糸を扱うことから始まる私たちとは違う発想が彼らにはあるのでしょう。また繊維から手紡ぎで糸を作る手間を思えば、少しの糸も無駄にしたくはないでしょう。例えば世界の織物を見ると房のあるものがほとんどですが、アンデスや中南米では四方耳の布と呼ばれる房のない手織り布が一般的です。すべての糸を使う工夫の一例と考えられます。組みひもの場合も最後の糸端まで利用しようと、始末と同時に装飾を兼ねた手の込んだ方法をいろいろと編み出しています。

 

写真5 さまざまな組みひも技術を使った自作のサンプル例

ワークショップ:

 2回目のテーマは『組みプレートを使ったアンデスのひも』です。これまでの説明にありますように、アンデスでは元々は手指だけを使って組みますが、日本の組みひも作家で研究家の多田牧子さんが組みディスク、組みプレートという道具を考案されました。この道具を使うことにより、組む糸の位置が定まって仕事が楽にできます。ただ糸の位置をナンバーで指示する方法には少々煩雑さを感じるので、私なりに工夫を加えてよりわかりやすくまとめた方法で説明します。今回は基本の糸操作を学び、下の写真中の3〜5種類のデザインの組ひもを作ります。

 

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