スプラングへ
~時空を超えて紡がれる古代テキスタイルの物語~

筆者 相原千恵子プロフィール:
テキスタイル作家、スプラング及び古代技法の研究家
主に南米アンデス地域への調査旅行、個展、ワークショップを続けている。

第4話 スプラングの魅力

 さて、いよいよ織以前の技法の中でも最も奥深い魅力に溢れたスプラングのお話しをしてまいりましょう。スプラングとは、「編み状の物」を意味する古スウェーデン語に由来すると言われています。

 

スプラングの歴史:

 1871年、デンマークのボーム=エスホイ(Borum-Eshoi)にて出土した婦人用の頭覆い(hair-net)が、B.C.1400年頃の青銅器時代につくられた現存する最古のスプラング裂であることがわかりました。その他、ユーラシア大陸、ヨーロッパ、中近東、アフガニスタン、パキスタン、アフリカ大陸北部、中南米など広範囲にわたって知られていた技法であることも確認されました。中でもB.C.約300年からA.D.600年頃までにペルーのイカ川、グランデ川流域からパラカス半島付近一帯の南部海岸地域に栄えたナスカ文化期には、特に複雑精緻な裂が作られ、頂点を極めたと言われています。

 

ポンチョ部分 ペルー、ナスカ文化期(B.C.300年-A.D.600年頃)
ナスカ文化期の頭飾り

スプラングの特徴:

 スプラングは、上下2本の棒の間にタテ糸をセットしてそれを互いにからめたり交差させたりして布を作っていく方法です。ヨコ糸を必要とせず、一段ずつ上、下の両端から編み目が同時に仕上がっていき中央で終わるので、上下に対称のデザインが現れます。仕上がる布は伸縮性に富み、透けて軽やかな風合いになり、簡単に斜め模様が作れるなど織りやほかの編みものとは一味違うさまざまな特徴があります。

 

 

スプラング基本形

組織の種類:

 スプラングの基本形は(A)インターリンキング、(B)インターレイシング、(C)インタートワイニングの3種類です。各画像はその編み目と組織を表しています。

(A)インターリンキング:となり合う2本の糸を次々と互いにからめる手法。一回からめると糸は逆方向に進み、それを繰り返すとジグザグ、色を組み合わせてタテ縞文様になります。

(B)インターレイシング : となり合う2本の糸を互いに交差させながら斜め文様をつくります。

(C)インタートワイニング : となり合う4本2組の糸を互いに交差させながらもじり合わせて編み目をつくります。(A)(B)に比べて編み目は厚く、大きくなります。

 

 

いずれの編み目もシンプルな作業の繰り返しから生まれますが、それぞれを組み合わせたり素材や配色を変えると、そのヴァリエーションは驚くほど豊かに広がり、可能性は無限大です。ぜひ、個展会場でその自由でワクワクする楽しさに溢れた世界を体験なさってください。

相原千恵子 作品 ショール
相原千恵子 作品 
相原千恵子 作品 タピストリー
相原千恵子 作品 ウエア
相原千恵子 作品 帽子

ワークショップ:

 ワークショップでは、スプラングの基本形を使った作品作りに挑戦します。織りとも編み物とも違う不思議な布づくりをこの機会にぜひ体験してみてください!

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スプラングの物語 第一話

スプラングの物語 第二話

スプラングの物語 第三話