スプラングへ
~時空を超えて紡がれる古代テキスタイルの物語~
筆者 相原千恵子プロフィール:
テキスタイル作家、スプラング及び古代技法の研究家
主に南米アンデス地域への調査旅行、個展、ワークショップを続けている。
第2話 原始的な布づくりの手法、ルーピング
ルーピング技法とは:
ルーピング(日本語では連環組織)は人類が最初の布作りを始めたときからあった非常に古くからの手法の一つです。ペルーで約5000年前の遺跡から見つかったミイラの図(写真3) がありますが、9層の様々な技法で作られた布状のものに大切に包まれて埋葬されていた様子を示しています。⑤ ⑥番がルーピング技法と推定できます。
用いる道具は一つ穴の1本針で、前の編み目にループ状の編み目をつぎつぎに作っていきます。当時の人々は魚の骨やサボテンの棘で針を作り、身の回りの植物のツルや樹皮、動物の毛皮や腱から繊維を取り出して縄や糸にして、それから一目ずつヨコへと編み目を繋げて布状に仕上げていきました。この方法は今でも世界中で使われています。特に植物繊維を素材にした編み袋などはクラフトショップなどでもときどき見かけます。
世界のルーピングの例:
南米ではペルーのアマゾン地域、ボリビアやパラグアイの草原湿地帯で狩りの道具や獲物を入れるための袋が作られました(写真4と写真6-1)。素材はパルメラヤシの葉や竜舌蘭の繊維などが使われ、ヨコ方向にぐるりと回しながら編み進み、通常は上から下へと袋状に作ります。現地では「Sigra」「Malla」と呼称されます。
インドネシアのパプア・ニューギニア地方では狩猟民族が額から背中に背負う独特な袋を伝統的に作っていました。荷物や小さい子供を運ぶためのもので「Bilum」と呼ばれます。現在ではビニール紐などを素材にした観光土産用の袋が作られているようです(写真6-2)。
エジプトではルーピングでできたソックスがA.D.4世紀ごろのコプト期の遺跡から発掘されています。その他シリアやアフガニスタン、アフリカのマリ、ブルンジ、ナイジェリアなどにも袋や人形の例が報告されています。
北欧のスカンディナビア諸国には「Nalbiding」と呼ばれる手法が伝わっています。これは主にウール素材でミトンやルームシューズ、帽子などを作ります。これもルーピング技法の中に含まれると考えられます(写真5)。一つ穴の針で作ることは同じですが、編み目を作っていく方向が南米などとは違い、ループ構成も複雑です。
ルーピングの種類:
ぐるぐると一方方向にらせん状に作る共通性はあるものの、世界中のルーピングにはさまざまな編み目の変化が見られます。多くは袋で平面的な形状ですが、その中で古代ペルーの縁飾り(写真1と8)は群を抜いて完成度が高く、その色彩鮮やかな繊細な仕事ぶりには驚かされます。それはなぜなのでしょうか?
彼らの身近にあったアルパカの毛は細い糸に紡ぐことができ、天然染料でカラフルに染められる良質な素材です。他の地域では植物繊維が使われ、これほどの細かい編み目は作れませんし、染色も絨毛に比べて難しいのです。また各写真の下に示す拡大した編み目を比べると、ナスカ期の縁飾り(写真8)はより緻密な組織で作られています。これは掛け輪組織という種類で一見するとニットの編み目と同様に見えますが、糸が切れてもほつれない構造の別の編み方です。こうした素材と技法の特徴を巧みに活用して作られたものがアンデスのルーピングの縁飾りなのです。
私はその中で特に、必ず細い筒状の立体ができることに注目してアクセサリーや小物を作ることを思いつきました。1本の針を使ってひたすらループ状に編み目をつなげていく作業は単純そのものですが、多彩な糸で好きな立体の形に仕上げていけるワクワク感が楽しめます。
ワークショップ:
1回目のワークショップは 「ルーピングのブレスレット」を作ります。基本の編み目の作りかたと目を揃えるコツをまず掴みましょう。均一に編み目が作れるようになってきたらオリジナル手染めのアルパカ糸を使って配色デザインに挑戦。時間に余裕があるようでしたら、より立体的なものを作れるようなアイデアをお伝えしたいと思います。
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